研究開発奨励賞について
NF Foundation R&D Encouragement Award
第2回(2013年度) 研究開発奨励賞
2013年11月、応募者の中から書類選考により、研究開発奨励賞10名が選出されました。
11月28日(木)に10名の受賞者による研究発表会が開催され、
研究開発奨励賞優秀賞 2名が選出されました。
研究開発奨励賞優秀賞(五十音順・敬称略)
氏名 | 所属 | 分野 | テーマ名 | |
---|---|---|---|---|
高橋 康史 | 東北大学 | 先端計測 | ナノ電気化学顕微鏡の創成 | |
中山 知紀 | 筑波大学 | 環境・エネルギー | 多様な電力変動に対応して高効率な入出力が可能なバッテリ−キャパシタハイブリッド蓄電システムの開発と制御手法の確立 |
研究開発奨励賞(五十音順・敬称略)
研究のねらいと概要
ナノ電気化学顕微鏡の創成
高橋 康史(東北大学)
先端計測
X線構造解析,電子顕微鏡,蛍光顕微鏡の発展に伴い,細胞の詳細な構造が明らかとなり,細胞の構造と機能をシームレスで結びつける研究が急務とされている.マイクロ電極を用いた生細胞の測定は,単一細胞レベルで行われたが,細胞表面の局所的な化学物質の検出は,技術的に困難であった.申請者は,新奇的なカーボンナノ電極の作成プロセスと,イオン電流をフィードバックシグナルとして利用するユニークなナノポジショニングを開発した.これらを SECM に搭載したナノ電気化学顕微鏡(nanoSECM)により,単一細胞表面の”化学物質の濃度分布”を世界にさきがけて可視化し,生細胞表面センシングの新たな分野を切り開いた.これまでのマイクロ電極(直径10 μm)をナノ電極(直径13 nm)まで微細化し,従来の 1000 倍高解像度な SECM測定を実現した.
多様な電力変動に対応して高効率な入出力が可能な
バッテリ-キャパシタ ハイブリッド蓄電システムの開発と制御手法の確立
中山 知紀(筑波大学)
環境・エネルギー
太陽光発電(PV)や風力発電(WT)はさまざまな変動成分を含み,負荷に安定して電力を供給できる電源とはならない.また,低日射や低風速環境下での低電圧・低電流発電状態も長時間発生する.このような状態では電力変換器の定格から外れた範囲における電力変換を余儀なくされ,変換効率が非常に低くなる.他に,最大電力点追従(MPPT)制御を行う必要や,PVの場合は,PVストリングの一部に影がかかると全体の出力が低下してしまう課題がある.上記課題を解決し,PVやWTからの発電電力を有効に利用しながら,即応性の蓄電デバイスであるLi-ionキャパシタ(LiC)と容量性の蓄電デバイスであるLi-ionバッテリ(LiB)を組み合わせて,入出力を分担制御することでそれぞれの特長を活用し欠点を利用せずに適切な需給調整を可能にするバッテリ-キャパシタハイブリッド蓄電システム(BACHES)を開発した.
超早期「その場」診断を目指した極微量マイクロRNAのオンチップ極限計測
新田 英之(JST/名古屋大学)
先端計測
体液中にも存在するマイクロ RNA は,アルツハイマー病,パーキンソン病,糖尿病やがん等の超早期診断マーカー(標的分子)として注目されているため,持ち運び可能で操作が簡単な,場所を選ばないマイクロRNA検出チップが実現すれば,これらの疾病に関する在宅診断,発展途上国での診療など, 「その場」診断医療への大きな貢献が期待できる.ポリジメチルシロキサン(PDMS)の空気をため込む性質に着目して開発した,外部電源を必要としないポータブルな自律駆動マイクロ流体デバイスを用い, 0.25 アトモルという極微量マイクロ RNA を 0.5 マイクロリットルの溶液からたった20分で検出することに成功した.マイクロチャネル内一次元空間でサンプルを扱うため,検出に必要なサンプル量も劇的に減少した.この手法は,大がかりな装置を必要としないため, 「その場」診断の実現可能性を飛躍的に高めた.
シリコン結合タンパク質をインターフェイスとした
半導体とバイオテクノロジーの融合による新規バイオセンサーの開発
池田 丈(広島大学)
先端計測
ナノスケールでの微細加工が可能なシリコン半導体デバイスと,それ自身がナノサイズの分子デバイスである生体分子(特にタンパク質)を組み合わせることで,超高感度な半導体バイオ融合バイオセンサーを創出しようとする研究が盛んに行われている.しかし,無機固体であるシリコンと,失活しやすい可溶性有機高分子であるタンパク質という異種材料を安定かつ機能的に融合するためには特別な戦略が必要となる.特に従来のような物理吸着や化学的架橋化などの方法では,タンパク質の変性・失活や立体障害による活性低下が生じるといった問題がある.そこで申請者は,簡便かつ安定な半導体・バイオ融合デバイスの構築を可能にする基盤技術の開発に取り組み,天然変性タンパク質「Si-tag」が半導体―バイオ間のインターフェイスとして機能することを発見した(文献1,2).さらに,本技術を利用して実際に新規の半導体バイオ融合バイオセンサーの開発に成功した(文献3).革新性のポイント:シリコンに強力に結合する性質を有するタンパク質であるSi-tagを遺伝子工学的に融合することで固定化の対象となるタンパク質自身にシリコン結合能を付与するという点で既存技術とは一線を画する.また,既存技術とは異なり,シリコン基板の表面処理を一切必要としないため,迅速で簡便な半導体・バイオ融合デバイス作製が可能となる.実際に,シリコン光デバイスであるリング光共振器と組み合わせた半導体バイオ融合バイオセンサーの開発に成功しており,Si-tagの有用性を実証するとともに,各種バイオマーカータンパク質をラベルフリーで検出することに成功した.
オペアンプシェアリング技術を応用した高精度・低消費電力A/D変換LSIの開発
兼本 大輔(山梨大学)
先端計測
現在,スマートシティに代表されるような,IT 技術と実世界を緊密に結合したIT 環境「サイバーフィジカルシステム (CPS)」に関して多くの研究者が注目し,実現に向けた研究を急いでいる.CPS で利用するディジタルデータの多くが,各種センサーから取り込まれた実世界(アナログ)データである.よって実世界の情報を,高精度かつ低消費電力でディジタル信号へ変換する計測ツールとしてのA/D 変換器の重要性が,今後ますます高まると予想出来る.しかし,従来のA/D 変換器の構成では,変換精度と消費電力の間にはトレードオフが存在する為,高精度変換を低消費電力動作で行えるA/D 変換器の実現は困難であると言われてきた.そこで,申請者は「新たな高精度A/D 変換LSIの低消費電力動作技術の開発」が今後のCPS 実現に取って最重要課題の一つになると考え,従来のトレードオフを大幅に解消する技術開発に着手した.
ナノポーラスコンポジット材料を活用した省エネ電力機器技術に関する研究開発
栗本 宗明(名古屋大学)
環境・エネルギー
太陽電池や風力発電などを大量導入した再生可能エネルギー社会において,電力流通コストを低減するために,電力機器を究極的に小型にした省エネ電力機器が必要である. これに伴い,機器内部で用いられる高分子材料の電気絶縁耐力を高めなければならない. 高分子絶縁体の改質のため各種セラミックス充填材が添加されるが,その高い誘電率に起因する絶縁劣化が引き起こされ易い.そこで,物質の中で誘電率が最も低い気体を利用した電力用低誘電率絶縁体の開発に取り組んでいる.本申請テーマでは,ナノサイズの狭空間内の気体ほど,電子衝突が持続的に起こる電子なだれ放電を形成しにくく,電気絶縁材料の欠陥となりにくいことを予想するPaschen 法則に着目し,ナノサイズのポーラス構造を持つセラミックス粒子をポリマーに充填したナノポーラスコンポジット材料を用いて低誘電率な絶縁材料を開発する. これを用いた省エネ電力機器の実現可能性を明らかにする.
柔軟な発光性π共役分子で材料歪みや粘性変化を可視化する技術の創出
齊藤 尚平(名古屋大学)
先端計測
π共役分子は有機EL,有機FET,有機太陽電池などのπ電子材料として有望視されており,このような有機材料の強みとして頻繁に言及されるのが,軽量,フレキシブル,プリンタブル,大面積化といった特長である.しかしながら,さらなる次世代π電子材料の開発を見据える上では,種々の外部刺激に応答して固体物性を可逆変化させる高度な機能の付与が必要となる.申請者は,柔軟な骨格と剛直な骨格とを組み合わせたハイブリッドπ電子系を構築することに成功し,π共役系の動きに伴う発光色変化を引き出すことで,下記の機能を備えたスマートマテリアルの開発に挑んでいる.
1.材料にかかる応力を蛍光で可視化することで材料の破断や劣化を予め検出する機能
2.材料の粘性変化を蛍光で可視化することで接着剤や光硬化樹脂の硬化を手軽に確認する機能
これら技術は,大型建造物にかかる歪み箇所の特定や,工場や医療現場での作業効率アップに貢献する.
機能性凝集剤による前凝集とセラミック膜ろ過を融合した
省エネルギー型浄水処理システムの開発
白崎 伸隆(北海道大学)
環境・エネルギー
世界的な水不足の顕在化により,水資源を安定して確保することが困難な状況となってきている.このような中で,健全な水循環を今後も持続するためには,利用に適さない低質な水をも水道原水として利用する必要がある.従って,劣化した様々な原水を高度・高効率に処理可能な技術の開発が強く求められている.そこで,本研究では,機能性凝集剤による前凝集と高流束運転が可能なセラミック膜ろ過を融合した省エネルギー型浄水処理システムを開発する.凝集剤は,素材や製法によって機能が大きく異なるため,膜ろ過の前処理としての使用を念頭においた多種多様な新規凝集剤を作製する.これらの中から,高処理性且つ低消費エネルギー性(膜の目詰まりによるろ過圧上昇の抑制)を有する機能性凝集剤を複数選定し,膜ろ過と融合することにより技術を体系化すると共に,原水水質に応じた凝集剤の使い分けにより,様々な原水に柔軟に対応可能な処理システムを開発する.
X線天文衛星搭載の最先端ガンマ線センサ技術の分野を超えた応用展開
武田 伸一郎(JAXA 宇宙科学研究所)
先端計測
申請者は,飛翻体や入工衛星を用いた宇宙高エネルギー天体観測の分野で,次世代の高感度ガンマ線観測を実現するための,新しい観測装置の開発を進めてきた.天体からの微弱な信号を高感度で観測するために蓄積してきた最先端のガンマ線センサ技術が,放射性同位体の可視化を必要とする分子イメージング・核医学・セキュリティ・放射線モニター等の学術・産業分野においても,既存の装置が抱える問題点を克服するために,有力な技術基盤を供しうるという着眼点に基づき,X線天文衛星搭載のガンマ線センサ技術を,分野を超えて応用展開する試みに取り組んできた. 具体的には,シリコン(Si)とテルル化カドミウム(CdTe) 半導体検出器を多層に積層する,新しいコンセプトに基づいたSi/CdTe コンプトンカメラのプロトタイプ機を製作し,小動物に同時投与した放射性薬剤の同時追跡・画像化や,福島第一原発事故で飛散した放射性物質の可視化を実証してきた.
紙資源を利用した不揮発性メモリ素子の開発
長島 一樹(大阪大学)
環境・エネルギー
人類が紙を発明して以来,数世紀の間,紙は情報を記録する上で欠かせない存在であった.紙は製造が容易であり,また再生可能であることから,環境に優しい技術であった.しかしながら,近年の半導体技術の急速な発展により,情報記録は電子デバイスである不揮発性メモリを介して行われるようになり,時代はペーパーレス社会へと変遷しつつある.この様な現代社会において,紙は情報記録という舞台で今まさにその存在意義を失いつつある. 本研究では,紙の原料であるセルロースナノファイバーが有するイオン伝導性を利用して不揮発性メモリ素子を開発し,紙が本来有する電子デバイスとしての潜在能力を探究する.紙資源を利用した本研究は,我々の身近にありふれた紙の情報記憶媒体としての存在意義を再認識させるだけで はなく,環境に優しいペーパーエレクトロニクス応用といった全く新しい研究分野の開拓への第一歩となる基盤研究である.