研究開発奨励賞について
NF Foundation R&D Encouragement Award
第3回(2014年度) 研究開発奨励賞
2014年10月、応募者の中から書類選考により、研究開発奨励賞10名が選出されました。
11月21日(金)に10名の受賞者による研究発表会が開催され、研究開発奨励賞優秀賞 2名が選出されました。
研究開発奨励賞優秀賞(五十音順・敬称略)
氏名 | 所属 | 分野 | テーマ名 | |
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都甲 薫 | 筑波大学 | 環境・エネルギー | フレキシブル・多接合太陽電池の創出に向けたプラスチック上Ge薄膜の開発 | |
渡邉 力也 | 東京大学 | 先端計測 | 次世代膜輸送体研究のための超高感度計測技術の開発 |
研究開発奨励賞(五十音順・敬称略)
研究のねらいと概要
フレキシブル・多接合太陽電池の創出に向けたプラスチック上Ge薄膜の開発
都甲 薫(筑波大学)
環境・エネルギー
高い変換効率(>40%)と広い汎用性を両立する次々世代太陽電池として「フレキシブル・多接合太陽電池」を提案すると共に、その実現の鍵となる「プラスチック上Ge 薄膜」の研究開発を行っています。これまでに、金属を結晶成長の触媒とする独自技術を開発し、Ge 薄膜をプラスチック上に低温形成しました[ 特願2014-002033]。本手法は、大粒径・方位制御・低温成長の点で、従来法を大きく凌駕しています。申請者は、本法で形成した「擬似単結晶Ge 薄膜」を太陽電池に応用することで、理論的にバルク単結晶Ge 基板並の光学特性が得られることに着眼しました[ 特願2011-288652]。既に簡易なデバイスを試作し、従来法を2 桁凌駕する0.3A/W の分光感度(出力電流/照射光強度)を取得しています。現在、実用レベルの分光感度(>1 A/W)を実現するため、結晶性とデバイス構造の改善を行うと共に、関連企業とも積極的に情報交換を行いながら研究を推進しています。高効率と汎用性を両立する次々世代太陽電池の早期開発、すなわちグリーンイノベーションへの貢献を目指します。
次世代膜輸送体研究のための超高感度計測技術の開発
渡邉 力也(東京大学)
先端計測
膜輸送体の “超高感度” 計測技術の新規開発を行い、創薬のための先端解析手法の確立を目指す。膜輸送体は、細胞内外のイオンや分子を輸送するたんぱく質であり、情報伝達やエネルギー合成などの生理的に重要な役割を担っている。近年、その生理的重要性から、膜輸送体を標的とした創薬が行われようとしているが、薬剤の作用機構を解明するために必要とされる、“膜輸送体の活性や構造変化を高感度に計測する技術” が決定的に欠落していた。そこで、申請者は、膜輸送体の活性や構造変化を高感度に検出する技術を新規開発することで、輸送機構や薬剤の作用機構の解明を目指した。現在までに、人工生体膜チップの自主開発に成功し、従来法と比較して約100 万倍の高感度をもって輸送活性を計測できるようになった。また、膜輸送体の輸送と共役した構造変化を直接可視化する先端顕微鏡技術の開発にも成功した。これらを融合した装置が完成すれば、膜輸送体の学術的理解が大幅に促進されると同時に、膜輸送体を標的とした創薬候補物質の先端解析・大規模探索技術となることが強く期待される。
半導体量子ドットを用いた固体素子中の局所電子状態プローブの開発
大塚 朋廣(理化学研究所/東京大学)
先端計測
情報処理デバイスの低消費電力化や多機能化に向け、固体微細構造を利用した新しい動作原理のデバイスが提案されている。この新デバイスでは従来のデバイスにも増して、微細構造中の局所電子状態が重要な役割を果たすため、微細構造中の局所電子状態に直接アクセスできる局所プローブの重要性が高まっている。我々は人工量子系である半導体量子ドットを用いて、この固体微細構造中局所電子状態のプローブを実現した。量子ドット中の人工量子準位を測定対象に接続して電子のトンネルを調べれば、トンネルには対象中の局所電子状態の情報が反映される。これを利用して微細構造中の電気化学ポテンシャル、電子温度、スピン偏極等を高精度で低擾乱に調べられることを示し、新しいプローブの有効性を実証した。またこの新しいプローブと高速測定技術を組み合わせ、超高速量子プローブを実現し、局所電子状態のダイナミクスまで明らかにする研究を実施している。
磁性体/絶縁体界面の磁気異方性とその電界制御
金井 駿(東北大学)
環境・エネルギー
揮発性半導体メモリの微細化に伴う非動作時の情報保持電力の増大により、その高集積化は限界に達しつつある。この問題を、磁気メモリ・デバイスの不揮発性に注目して解決する取組みが行われている。申請者は強磁性金属合金と酸化物界面に起因する磁気異方性と、その電気的制御についての研究開発に取り組んでいる。高性能磁気メモリ材料に用いられるコバルト鉄ホウ素/酸化マグネシウム接合においてコバルト鉄ホウ素が1.5 ナノ・メートル以下の場合界面磁気異方性により磁化容易軸方向が膜面垂直方向をとることを示し、ナノ・メートル径のスピントロニクス材料の実用化に必要となる、垂直磁化容易軸と低消費電力を両立する材料構造を発見した。接合を含むキャパシタ構造素子を作製し、界面磁気異方性が電界により制御可能であることと、それを利用した電界誘起磁化反転(ビット制御)を磁気トンネル接合デバイスにおいて実証した。電界による磁性制御は電子濃度変調を介しているため、他の磁性体書き込み手法に必須であるジュール熱が不要であり、必要な消費電力は半導体メモリの動作電力と同程度である。不揮発性を有しているため非動作時の情報保持電力の問題と無関係であり、メモリ・デバイスの低消費電力化、更なる高密度化、高集積化に大きく貢献している。
放射性同位元素を用いた植物体内における元素動態のライブイメージング技術の開発
杉田 亮平(東京大学)
先端計測
作物管理をいかに科学的に解明していくかが、高い作物生産を図るための大きな技術に発展していくと期待される。しかし、農業現場での生産向上の科学的データの蓄積は作物について不十分である。その一つとして、植物体内における元素の分配が挙げられる。元素の分配は、作物生産量や食味に大きく関わるため、作物生産に重要であるものの、分配制御のメカニズムはいまだ不明な点が多い。解析を難しくしている理由として、輸送・蓄積による元素動態が刻一刻と変化することが挙げられる。これらの変化を解析するためには、植物体内での元素動態を生きたまま解析する必要がある。食物を非破壊で解析するには、放射性同位体(RI)を用いたライブイメージングが強力なツールである。ライブイメージング装置は、国内外を通じて数が少なく、長期的な植物生理現象の解析が可能な装置はほとんどない。さらには、これらの装置は核種の調製に大規模な施設を必要とするため、汎用性が低い。そこで本申請者らは、リアルタイムRI イメージングシステム(RRIS) を独自に開発してきた。RRIS は、他のライブイメージング装置と異なり、β線や軟X線を検出できることから、利用可能なRI の選択範囲が広い他、長時間における解析が可能である。
微量金属酸化物に着目した重金属の土壌中挙動の把握、および『相変化を伴わない高効率・薬品無使用・省エネルギー型の先駆的汚染土壌浄化技術』への活用
鈴木 祐麻(山口大学)
環境・エネルギー
鉛あるいはヒ素による土壌汚染は我が国における重要な環境問題であり、その規模は土地資産価格150 兆円と推定されている。申請者は近年、電気修復法の省エネルギー化の研究(Suzuki et al. 2013 J. HazardMater., Suzuki et al. 2014 Colloids Surf. A; Suzuki et al. 2014 J. Hazard Mater.) およびMgO による不溶化処理におけるメカニズムに関する研究(Suzuki et al. 2013A, Chem. Eng. J. ; Suzuki et al. 2013B, Chem. Eng. J. ;Suzuki et al.2013 J. MMIJ ) を通して、土壌中における重金属の動態に微量金属酸化物が与える重要性について知見を拡充してきた。そして、これらの研究を進める過程において、鉛が土壌中に含まれるTiO2 の表面上に選択的に析出していることを見出した。現在、この新しく見出した選択的表面析出現象を活用した『相変化を伴わない高効率・薬品無使用・省エネルギー型の先駆的重金属汚染土壌浄化技術』を開発中であり、予備実験によりその有効性が確認されている。
有機エレクトロニクス素子のキャリヤ挙動を非破壊・非接触で計測する 光EFISHG 法の開発
田口 大(東京工業大学)
先端計測
有機EL や有機太陽電池などのエレクトロニクス素子の研究が活発化している。これらの素子で用いる有機半導体材料は、シリコンなどの無機半導体材料とは異なり、誘電体的側面が強い。本研究開発では、誘電体中のキャリヤが必ず電界を発生することに着目し、これを活かした新しい測定法を実現できるはずであるということが着眼点である。こうして、電界計測によりキャリヤの動きを非破壊・非接触で直接光学的に評価するEFISHG 法を世界初の手法として実現した。これにより、有機EL および有機太陽電池中のキャリヤ挙動が直接の測定により明確になった。本測定システムは時間分解能10 ns、キャリヤ密度1011 cm-2(電界 104 V/cm に対応)の精度を達成している。また、軸対称レーザーにより、キャリヤ挙動の面内分布を可視化する顕微鏡も実現した。
超高速マルチバンド3 次元動画ホログラフィックイメージング技術の創出および顕微鏡応用
田原 樹(関西大学)
先端計測
既存の3 次元計測技術では不可能であった,広波長帯域の超高速マルチバンド3 次元動画像記録・ホログラフィックイメージングを達成する技術を開発する。ホログラフィを用いることで深深度3 次元画像と位相情報を単一画像記録より得る。波長情報を単板単色撮像素子に多重記録し,信号理論の駆使により波長情報を選択的に分離抽出する。そのため,カラーフィルタアレイなどの波長フィルタが一切不要で多波長画像を取得できる。以上より,既存の高速度カメラを撮像素子に用いることで超高速のマルチバンド3 次元動画像記録を達成できる。顕微鏡応用することにより,生体試料の3 次元形態に加え,吸収率/ 反射率/ 屈折率の波長特性など組成と光波長の相互作用を同時に高速動画像計測できる。高速度マルチスペクトル3 次元ビデオカメラなど新規可視化装置を提供でき,材料破壊や加工など高速動的現象にも適用可能,種々の新規物理的メカニズム発見・解明に挑戦できる。
水素吸蔵合金とCO 選択吸着材を用いた負荷変動対応型水素製造・精製システムの開発
藤澤 彰利(株式会社神戸製鋼所)
環境・エネルギー
固体高分子形燃料電池(PEFC) は小型・部分負荷でも高効率発電が可能なため、分散型電源としての利用が進んでいる。現状では水素供給インフラは未整備のため、既存の炭化水素インフラと改質装置を利用して水素をPEFC に供給している。しかし改質装置は基本的に熱プロセスであり、PEFC における電気化学反応と比較すると時間的応答が極めて遅く、負荷追従発電ができない。これらの問題を解決するための純水素精製・貯蔵システムとしてCOA-MIB(CO Adsorption Metal hydride IntermediateBuffer)システムを提案した。本システムはCO 選択吸着材によりPEFC の性能低下を招くCO を除去し、水素吸蔵合金(MH) の選択的水素吸蔵性を利用することで純水素精製・貯蔵を同時に行い、改質装置とPEFC を時間的に切り離し、負荷変動対応型発電装置を実現するものである。本システムを実証するため、水素製造量100NL/h のメタノールを原料とした改質器・CO 選択吸着材・MH・燃料電池を組み合わせたラボスケール試験装置を作製・運用し、プロセス成立性を実証するとともに既存の水素精製プロセスである水素PSA よりも9 ポイント高い水素回収率が得られることを確認した。また30 倍にスケールアップした水素製造量3Nm3/h のベンチスケールを作成、スケールアップに伴うMH 容器の課題を開発したシミュレーションを活用して解決し、純水素精製と貯蔵を同時に達成できる、既存プロセスよりも水素回収率の高い負荷変動対応可能な革新的プロセスとして確立した。
1 次元フォトニック結晶による感染症の無標識診断技術の開発
安井 隆雄(名古屋大学)
先端計測
本研究開発では、1 次元フォトニック結晶に光を照射した際に生じる回折光を利用し、感染症由来のD N A 増幅過程を無標識にリアルタイムで計測することで、1 z m o l レベルでの定量解析を実現することに成功した。1 次元フォトニック結晶として、石英基板上の微小流路( 幅25 μm)内部に、幅600nm、高さ2.7 μm のナノ構造体( ナノウォール) を200nm 間隔にてパーティションのように流路と平行に作製した。この1 次元フォトニック結晶に、集光した光を照射すると、フォトニック結晶による光回折が観測される。この回折光を検出することで、フォトニック結晶内でのDNA 増幅過程を無標識で検出する技術を開発した。本研究では、結核菌DNAと子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウィルスDNA を対象とする感染症とした。それぞれのDNA の増幅過程をリアルタイムで計測することによって、増幅前のDNA 量を定量することが可能であり、従来法では、標識材となる蛍光試薬を用いてDNA 増幅のリアルタイム計測が行われていた。しかし、この蛍光標識に基づいた手法では、低濃度のDNA 分子を定量的に標識化することが困難であるため、本質的に、低濃度域のDNA 量を定量することができないという問題があった。本研究では、DNA 増幅過程を、無標識でリアルタイムに計測することに世界で初めて成功することで、低濃度のDNA 量の定量が困難であるという問題を打破し、1zmol の感染症由来DNA を無標識で定量することができる超高感度な計測技術を開発した。