研究開発奨励賞について
NF Foundation R&D Encouragement Award

第4回(2015年度) 研究開発奨励賞

2015年10月、応募者の中から書類選考により、研究開発奨励賞10名が選出されました。
11月13日(金)に10名の受賞者による研究発表会が開催され、
研究開発奨励賞優秀賞 2名、選考委員会特別賞 1名が選出されました。

研究開発奨励賞優秀賞(五十音順・敬称略)

氏名 所属 分野 テーマ名  
冨岡 克広 北海道大学 環境・エネルギー 次世代低消費電力スイッチ素子の創成へ向けた化合物半導体ナノワイヤの研究 概要
紋野 雄介 東京工業大学 先端計測 単板式リアルタイムマルチスペクトルイメージングシステムの開発 概要

選考委員会特別賞(敬称略)

氏名 所属 分野 テーマ名  
杉元 紘也 東京工業大学 環境・エネルギー 非接触磁気支持機能を備えたベアリングレスモータの低コスト化のための革新的モータ構造及びドライブシステムの研究 概要

研究開発奨励賞(五十音順・敬称略)

氏名 所属 分野 テーマ名  
NGUYEN THANH VINH 東京大学 先端計測 微小液滴の運動メカニズムを解明するためのMEMS 力センサの開発 概要
今宿 晋 東北大学 先端計測 焦電結晶を用いた小型装置 概要
岩崎 孝之 東京工業大学 環境・エネルギー 次世代低損失パワーデバイス応用に向けたダイヤモンド接合型電界効果トランジスタの開発 概要
小川 雅 横浜国立大学 先端計測 X線回折を用いた3次元残留応力評価法の開発 概要
坂本 良太 東京大学 環境・エネルギー 省エネルギーおよびエネルギー創出を担う「ボトムアップ型」ナノシート 概要
古川 怜 電気通信大学 先端計測 電力を消費しない肉眼検知式光ファイバー構造物ヘルスモニタリングの開発 概要
真栄城 正寿 北海道大学 先端計測 タンパク質結晶構造解析のための機能集積測定システムの開発 概要

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研究のねらいと概要

次世代低消費電力スイッチ素子の創成へ向けた化合物半導体ナノワイヤの研究

冨岡 克広(北海道大学)

環境・エネルギー

ナノメートルスケールの結晶成長技術で形成したSiとIII-V化合物半導体ナノワイヤの接合界面で生じるトンネル電流に着目し、次世代電子情報端末や電子機器の消費電力を9割以上削減できる次世代スイッチ素子・トンネル電界効果トランジスタ(FET)を提案するとともに、世界に先駆けて超低消費電力スイッチの開発に成功した。次世代エレクトロニクス、とりわけ集積回路で構成される電子機器・携帯電子端末の消費電力は、動作時でFETの供給電圧の2乗に比例し、待機時で駆動電圧に比例する。このFETの電圧は、近似的にサブスレッショルド係数とロジック回路で使用する電流幅(on/off)で決定される。回路の消費電力およびトランジスタの駆動電圧の大幅な削減には、サブスレッショルド係数の低減化が有効である。しかしながら、従来のFETは、サブスレッショルド係数の最小限界があるため、集積回路チップあたりの電力密度が集積度とともに急増している。本研究は、Si上のIII-Vナノワイヤの異種集積で生じるSi/III-V接合界面の特異なバンド不連続性に着目し、FETの物理限界を突破できる次世代スイッチ素子を開発し、素子応用技術を確立することで、あらゆる電子機器の消費電力を抜本的に削減する要素技術の革新を促す。

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単板式リアルタイムマルチスペクトルイメージングシステムの開発

紋野 雄介(東京工業大学)

先端計測

本研究では、小型で実用的な単板式リアルタイムマルチスペクトルイメージングシステムを開発した。マルチスペクトルイメージングは、従来のRGBカラーイメージングより多くの分光情報を観測する画像撮影技術であり、その有用性は医療や農業など幅広い分野で広く認識されている。しかしながら、既存のマルチスペクトルイメージングシステムは、複数台のカメラや複数回の撮影を必要とするため、システムが大型かつ操作も煩雑である。それに対し、本研究では、現在広く普及する通常のRGBカラーディジタルカメラのように、小型かつ誰でも手軽にマルチスペクトル画像撮影可能なシステムを開発した。開発したシステムでは、高品質なマルチスペクトル画像をリアルタイムで撮影可能であり、原理的に従来のRGBカラーカメラと同等のサイズおよびコストで実現可能である。したがって、将来的には現在広く普及する商用カラーディジタルカメラや、スマートフォンなどモバイル機器のカメラを置き換える事も可能であり、研究や特殊用途のみならず民生向けの幅広い応用への発展が期待される。

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非接触磁気支持機能を備えたベアリングレスモータの低コスト化のための革新的モータ構造及びドライブシステムの研究

杉元 紘也(東京工業大学)

環境・エネルギー

ベアリングレスモータは、機械的なベアリングを必要とせず、電磁力によって回転軸を磁気支持するモータである。したがって、非接触、無摩擦、無摩耗、潤滑油レス、メンテナンスフリーという特長があり、半導体製造装置、真空装置、薬液搬送、人工心臓などのポンプへの応用を目的とした研究が行われている。しかし、現状のベアリングレスモータは非常に高コストであるため、応用範囲は特殊用途に限定されている状況である。申請者は、ベアリングレスモータを幅広い産業に応用するため、低コストでシンプルなベアリングレスモータの研究開発を行い、画期的な1軸制御シングルドライブベアリングレスモータを提案した。試作機を製作し、実験を行い、基本原理の検証及び提案構造の有効性を確認した。さらに、トルク性能と磁気支持性能の向上を両立させた新しい構造を発明した。提案したベアリングレスモータは、軸受寿命が問題となっている冷却ファンやブロアへ応用が期待されている。

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微小液滴の運動メカニズムを解明するためのMEMS 力センサの開発

NGUYEN THANH VINH(東京大学)

先端計測

申請者は、直径数ミリメータサイズの微小液滴の運動メカニズムを解明するために、液滴の運動時に接触面に発生する力の分布を直接計測できるMEMS力センサの研究開発を行ってきた。微小液滴の運動は、自然界では剛体表面上での小さな液滴の滑りや振動としてよく観察され、工学の分野でもマイクロ流体やインクジェットなどとして頻繁に扱われている。微小液滴の運動メカニズムの解明は、学術的に意義があるのはもちろんのこと、多くの工学分野でも期待されている。剛体表面を滑り落ちる液滴、あるいはその表面上で振動する液滴の運動は重力や表面張力や粘性に影響されるが、空中で運動する液滴と違って、液滴と表面との相互作用がその運動を決定する重要な要因となる。したがって、液滴の滑りと振動のダイナミクスを理解するためには、その液滴が表面から受ける力を定量的に明らかにする必要がある。
申請者は、微小変形によって変化するピエゾ抵抗をもつ微小なMEMS力センサを、液滴と剛体表面との境界面に配置し、液滴の接触面に働く力分布の直接計測を実現した。また、提案したセンサを用いた液滴振動の計測により、わずか3μL以下の液滴で粘性を計測できる手法も提案した。

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焦電結晶を用いた小型装置

今宿 晋(東北大学)

先端計測

本研究では、焦電結晶を真空中で温度変化を与えると電子線が発生する現象を利用して、携行可能な3 種類の小型分析装置(電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)、カソードルミネッセンス(CL)装置および小型投影型電子顕微鏡)の開発を行った。従来の装置は据置型であるため、持ち運ぶことは困難である。一方、本研究で開発した装置は全体で5 kg 程度であるため、持ち運ぶことが可能である。小型EPMA については、10 μm の微粒子の検出することができた。小型CL 装置については、2 種類の希土類磁石(サマリウムコバルト磁石とネオジム磁石)を識別することができた。また、小型投影型電子顕微鏡は50 倍に拡大された像を得ることができた。これらの小型分析装置は、現場(生産工場、リサイクル資材集積所、鉱山、僻地の医療現場など)に直接持ち込むオンサイト分析用の小型分析装置として利用できる。

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次世代低損失パワーデバイス応用に向けたダイヤモンド接合型電界効果トランジスタの開発

岩崎 孝之(東京工業大学)

環境・エネルギー

世界的なエネルギー問題の解決は、エネルギー生成技術の開発と同時に生成したエネルギーの効率的な利用により達成されるものである。パワーデバイスは、現代社会の中で家電・自動車・鉄道・送電などあらゆる場所で低損失の電力変換(直流から交流への変換など)に貢献している半導体素子である。現在主に使用されているシリコンデバイスはその物性限界に近づいており、さらなる低損失電力変換を進めるために優れた物性を有するダイヤモンド半導体の活用が期待されている。本研究では、ダイヤモンドのバルク特性を活かす接合型電界効果トランジスタ(JFET)を世界で初めて開発し、その優れたデバイス特性を実証した。特に、高電圧によるデバイス特性評価により、ダイヤモンドJFET が他のワイドギャップ材料の物性限界を上回る絶縁破壊電界強度を有していることを明らかにした。さらに、ダイヤモンドJFETのさらなる低損失化に向け、伝導度変調による電流増幅手法を開発し、最大8.5倍の電流増加を確認した。本研究成果は、ダイヤモンドによる次世代低損失パワーデバイス実現に向けた基盤技術となるものである。

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X線回折を用いた3次元残留応力評価法の開発

小川 雅(横浜国立大学)

先端計測

地球資源の有効利用の観点から、既存の構造物をできるだけ長く、安全に使用することが求められている。しかし、原子炉をはじめとする圧力容器やクレーンなど、溶接が多用されている大型の機械構造物では、溶接部での3次元の残留応力を非破壊的に評価することが難しいため、疲労や応力腐食割れ(SCC)に対するき裂の進展速度を評価することができない。3次元の残留応力を非破壊に測定する中性子回折法があるが、中性子を照射することのできる施設に部材を切り出して持っていく必要があるため、現場で利用できない。
申請者は、中性子を用いることなく、現場で利用可能なX線回折を用いて部材表面の弾性ひずみを測定し、その測定値から部材全域の残留応力分布を推定する方法を独自に発明し、数値解析により本手法の有効性を示した(特許2件)。本手法により、構造物の余寿命を予測可能とすることで、安全性と経済性との両立を図ることができる。

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省エネルギーおよびエネルギー創出を担う「ボトムアップ型」ナノシート

坂本 良太(東京大学)

環境・エネルギー

有機分子・金属原子・金属イオンなどの微小構成要素から結晶性二次元高分子を紡ぎ上げるものを「ボトムアップ型」ナノシートと呼称する。例として申請者が開発した、 ジピリン有機配位子と亜鉛イオンから構成される「ジピリンナノシート」を挙げる。「ボトムアップ型」ナノシートの構想自体は80 年前に遡るが、 その実現はここ10 年間のものであり、 萌芽的な研究分野である。 申請者は有機―無機ハイブリッド分子「金属錯体」をモチーフとする「ボトムアップ型」ナノシートの効率良い合成法「液液界面合成法」「気液界面合成法」を開発し、 得られたナノシートが有用な機能性を示すことを世界に先駆けて実証した (NatureCommunications, 2015, 6713; J. Mater. Chem. A, 2015, 15357; 特願2014-84073; JACS, 2015, 4681; 特願2014-84072; JACS, 2014, 14357; JACS, 2013, 2462 など)。 本研究提案では、 申請者がこれまでに開発した「ボトムアップ型」ナノシートの次なる研究フェーズとして、 エネルギー創出を担う「高効率太陽電池」への応用、 およびエレクトロニクスに革新的な省エネルギーをもたらす「二次元トポロジカル絶縁体」としての利用を追究する。

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電力を消費しない肉眼検知式光ファイバー構造物ヘルスモニタリングの開発

古川 怜(電気通信大学)

先端計測

申請者が発案した新規の光ファイバー応力センサーは、以下に述べる特徴から、インフラのヘルスモニタリング(歪みや破損の監視点検)の普及に有効と考えられ、現在開発が進んでいる。 本技術は、建物に沿って敷設された光ファイバーの出射端の「色」を肉眼で確認することにより、その建物の歪みがわかる。この点において従来技術は、同様の歪み情報について、ファイバー出射光をパルス試験機およびスペクトルアナライザーという装置を使って解析しなければならず、これらの装置の費用が極めて高額であることと、インフラ監視義務のある自治体などで扱うにはデータの形態が難解すぎるという問題があった。また、本技術は、従来技術のようにレーザーなどの特定の光源を準備する必要が無く、太陽光や白色照明などの環境光を二次利用することで機能する可能性を持つ。従って、旧建築基準で建てられた家屋や自治体管轄の老朽化インフラなどの幅広い民間のインフラ点検ニーズに対し、低コストな解決策となることが期待される。また、大型公共インフラにも有効性が高く、シールドトンネルへの適用案は、交通運輸技術開発推進制度における研究開発業務(平成27-29 年・総額8千万円)として候補者を代表に執行中である。

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タンパク質結晶構造解析のための機能集積測定システムの開発

真栄城 正寿(北海道大学)

先端計測

タンパク質の立体構造解析は、生命現象の解明や創薬産業にとって不可欠な情報や知見を与える。そのため、研究室レベルだけではなく、産業レベルでも様々なタンパク質の構造解析が試みられている。しかし、タンパク質の立体構造解析は従事者の手技や経験に依存しており、簡便な測定手法や技術開発が望まれている。申請者は、マイクロ流体技術を用いたタンパク質の立体構造解析を未経験者でも簡便に行うことができる測定技術を開発した。タンパク質の立体構造解析は、①タンパク質の調製、②タンパク質の結晶化、③結晶構造解析(前処理とX線解析)、④立体構造の計算、の4つに分類できる。この中で、①と④は、それぞれバッチでの調製とPCによる計算である。したがって、②と③集積化したデバイスを開発できれば、タンパク質の立体構造解析のためのトータルシステムが実現できると着想した。半導体微細加工技術を駆使して、3 × 4 cm2のサイズに24個の結晶化チャンバーとバルブ機構を集積化したマイクロ流体デバイスを作製した。作製したデバイスは、②〜③のタンパク質の結晶化から前処理、X線結晶構造解析までの全ての操作、分析を行うことができ、モデルタンパク質の立体構造を1.5 Åの解像度で決定可能であった。

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