研究開発奨励賞について
NF Foundation R&D Encouragement Award

第8回(2019年度) 研究開発奨励賞

2019年10月、応募者の中から書類選考により、研究開発奨励賞10名が選出されました。
11月22日(金)に10名の受賞者による研究発表会が開催され、 研究開発奨励賞優秀賞 2名が選出されました。

研究開発奨励賞優秀賞(五十音順・敬称略)

氏名 所属 分野 テーマ名  
石井 良太 京都大学 先端計測 超ワイドギャップ半導体光物性を可視化する深紫外近接場光学顕微鏡の開発 概要
VOHRA Varun 電気通信大学 環境・エネルギー 低コスト光発電窓のグリーン&サステナブル作製を実現した研究 概要

研究開発奨励賞(五十音順・敬称略)

氏名 所属 分野 テーマ名  
井上 正樹 慶應義塾大学 環境・エネルギー 人と調和するエネルギー管理システム設計論 概要
今岡 淳 名古屋大学 環境・エネルギー 磁気結合による電力変換器の高電力密度化 概要
上谷 幸治郎 大阪大学 先端計測 機械刺激複合計測技術による光・熱性能変調材料の開発 概要
寺尾 悠 東京大学 環境・エネルギー 電動推進式航空旅客機へ搭載する全超電導モータの設計と交流損失の測定 概要
轟 直人 東北大学 環境・エネルギー ドライプロセス法を用いた原子レベル表面構造制御によるエネルギー変換触媒の開発 概要
松尾 貞茂 理化学研究所 先端計測 半導体並列二重ナノ構造における電子相関の形成と制御 概要
李 ひよん 芝浦工業大学 先端計測 光ファイバ中のブリルアン散乱を用いた高速分布計測技術の開発 概要
若松 達也 東京工業大学 先端計測 フェムト秒パルスレーザーpump-probe法による下部マントル鉱物の高圧下弾性波速度測定 概要

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研究のねらいと概要

超ワイドギャップ半導体光物性を可視化する深紫外近接場光学顕微鏡の開発

石井 良太(京都大学)

先端計測

水の浄化や空気の滅菌に,深紫外光(波長200~300 nm)の照射が有効であることが分かっている.従来の深紫外光源である水銀灯は環境負荷が高いことから(2017 年に水銀に関する水俣条約が批准された),未来の深紫外光源として,超ワイドギャップ半導体を用いた深紫外LED が期待されている.しかしながら,深紫外LED の発光効率は低く留まっており,普及には至っていないのが現状である.
高効率深紫外LED を実現するためには,超ワイドギャップ半導体の光物性解明が必須である,と申請者は考えた.そこで申請者は,超ワイドギャップ半導体の1 つである窒化アルミニウム(AlN)の励起子構造を世界で初めて明らかにし(添付文献[1]),高効率深紫外LED の設計に必要な物性定数を実験的に同定し(添付文献[2]),超ワイドギャップ半導体の光物性を可視化するために,世界最短波長で動作する深紫外近接場光学顕微鏡の開発(添付文献[3])を行った.
今後は,超ワイドギャップ半導体のさらなる光物性解明に向けて,極低温下で動作する深紫外近接場光学顕微鏡を新たに開発し,半導体光物性と深紫外分光法の更なる開拓を目指す.

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低コスト光発電窓のグリーン&サステナブル作製を実現した研究

VOHRA Varun(電気通信大学)

環境・エネルギー

エチオピアのような後発開発途上国では、1 人当たり1 平方メートルの太陽電池があれば、無料の太陽エネルギーを用いて暖かい食べ物、教育や健康管理へのアクセスが可能となる。他のソーラーエネルギー技術と異なり、低コストで作製可能な有機太陽電池は半透明光発電窓としても利用でき、次世代再生可能エネルギー技術としてのポテンシャルが高い。しかし、有機太陽電池窓の従来作製法では活性層材料や危険な溶媒が多く廃棄されているため、作製コストと環境への負荷が増加してしまう。本研究では、従来作製と同程度の高効率(5.8%)を得られる有機太陽電池に適用できる、活性層材料を廃棄しない薄膜作製法(プッシュコート法)の開発ができた。また、プッシュコート法を用いて高い透過率の効率的な光発電窓の作製も実現できた。従来作製法より危険な溶媒量を20 分の1 まで減らすことができるプッシュコート法を用いることにより溶剤廃棄に関する法律がない国でも健康や環境への負荷を増加させずに高機能再生可能エネルギー源の作製が可能となる。今後の研究では、プッシュコート法を用いて変換効率が8%を超える光発電窓やペロブスカイト太陽電池の作製を目的とする。

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人と調和するエネルギー管理システム設計論

井上 正樹(慶應義塾大学)

環境・エネルギー

申請者は,地域レベルでの電力需給調整などエネルギー管理問題を想定して,需要家に可能な限りの自由を許す制御システムの設計論に取り組んできた.近年,注目を集めるスマートグリッドでは,発電所など供給側に加えて需要側の制御までも行うことで柔軟性を高め,太陽光など不確かな自然エネルギーを系統へ大量導入できるようになる.需要側の制御は系統の安定化を狙う管理者には望ましい一方で,需要家には好ましいものではない.例えば輪番停電では需要家の都合とは無関係に彼らの電力使用の可否が決定されてしまう.暮らしを豊かにするための社会インフラの最良の形ではない.申請者は,人と調和する社会インフラシステムの設計論の構築を目指し研究を進めてきた.特に,地域全体での電力安定性を保証できる範囲内で,需要家の嗜好を可能な限り反映できる制御システム設計の問題に取り組んだ.そして,需要家の電力使用行動によらずに系統全体の安定性を保証する「弱い制御」の概念と制御構造を新たに開発し,そのもとで得られる需要家の不確かさに対するパーシステンス(粘り強さ)の数学的な解析をおこなった.

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磁気結合による電力変換器の高電力密度化

今岡 淳(名古屋大学)

環境・エネルギー

Co2 排出抑制を目的にハイブリットカー, 電気自動車をはじめとした移動体の研究開発が盛んに行われている。電動化に際しては車両に複数の電力変換器が必要となる。しかしながら, 現行の電力変換器は受動部品が主要な体積/重量を占めており, 燃費向上, 単位システムあたりの金属の省資源化, デザイン自由度向上のため, 高電力密度化や一充電での連続航続距離を向上させるため高い電力変換効率を実現することが重要である。申請者は電力変換分野と磁気応用分野の2分野を中心として研究を進めてきており, 分野横断の研究で電力変換器の高性能化/高電力密度化に関わる研究を実施している。電力変換器内で主要な体積を占めるはインダクタやトランスと呼ばれる磁気部品であり, 本研究では磁気部品のサイズを従来と比較して1/2, 1/3 程度にサイズを低減することができる磁気結合を利用した磁気応用設計技術について確立した。本研究により変換器サイズの低減を図ることができれば、電動化車両の燃費(電費)向上により省エネルギー化, 連続航続距離向上が可能であり, 性能向上の視点から早期民生への普及が実現できる。

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機械刺激複合計測技術による光・熱性能変調材料の開発

上谷 幸治郎(大阪大学)

先端計測

申請者は、バイオマス由来の高結晶性ナノ繊維であるセルロースナノファイバーを集積した紙状材料ナノペーパーが高熱伝導性を発揮することを見出し、透明性・異方性を合わせ持たせて熱輸送制御性を複合的に向上したエレクトロニクス基材向け伝熱部材の開発を行ってきた。さらに、予め制御された理想的な実験環境ではなく、より実用環境に近づけた状態での複合性能を計測する技術を開発することで、実践的な性能を幅広く評価し、従来観測できなかった性能の能動的変調を検出することを可能にしている。金属やプラスチックなど従来素材は環境への追随性が低く性能変動が小さい一方で、ナノペーパーはフレキシブルに形態変化するなど環境に柔軟に応答可能であり、機械的な刺激に応答して伝熱性や光学位相差を変調させる性能が明らかとなった。本成果は、高性能エレクトロニクスの精密温度管理や光学補償に資する能動制御材料の実現につながる。

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電動推進式航空旅客機へ搭載する全超電導モータの設計と交流損失の測定

寺尾 悠(東京大学)

環境・エネルギー

申請者らは、将来の電動航空旅客機の推進系に求められる、出力密度20 kW/kg以上の電気モータを実現するため、超電導材料を用いた「超電導モータ」の電磁設計及びその周辺技術に関する研究を行っている。近年、航空機の運航量は世界的に増加傾向にある。このような中、化石燃料を消費するターボファンエンジンをはじめとした推進システム全体の高効率化は、温室効果ガスの排出量低減の観点から重要であり、電気モータ等を使用した「電動推進システム」による航空旅客機の研究が世界中で行われている。
超電導技術は永久磁石より強力なマグネット製作の技術として注目されており、この技術をモータのコイルに採用することで鉄心使用量を低減した、軽量かつ高出力(高出力密度)な電気モータを構成可能である一方、交流磁界を発生するモータ内において、超電導コイルには特有の交流損失が発生するため、モータコイルの設計には本損失に関する測定技術や知見が不可欠である。以上を踏まえ、申請者らは電動航空機用超電導モータの電磁設計及び、高回転数/強磁界発生環境下での超電導コイルの交流損失測定を目指した研究を行っている。

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ドライプロセス法を用いた原子レベル表面構造制御によるエネルギー変換触媒の開発

轟 直人(東北大学)

環境・エネルギー

申請者は、燃料電池などの触媒を用いたエネルギー変換技術の普及に向け、表面原子構造制御による高機能な新規実用触媒材料を開発するための材料設計指針を提示する研究を行ってきた。
低炭素社会の実現に資する燃料電池などのエネルギー変換デバイスには触媒として白金などの貴金属およびその合金のナノ粒子が用いられている。現状では、これらの触媒材料開発の中心は高価な貴金属の使用量低減を目的とし、高活性な新規ナノ構造や新しい合金系を創出することにある。一方で、触媒反応は材料最表面原子層上で起こる化学反応であり、その表面原子配列などの幾何学的構造や電子構造が及ぼす影響は未解明な点が多い。申請者はこのような課題に対し、表面構造が原子レベルで規制された単結晶モデル触媒をドライプロセス法により構築し、その構造評価と触媒特性評価を通じ実用ナノ構造触媒が具備すべき様々な材料学的構造因子を解明してきた(ページ2、図1)。その詳細を2 ページより項目別に述べる。

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半導体並列二重ナノ構造における電子相関の形成と制御

松尾 貞茂(理化学研究所)

先端計測

同種、異種のナノ構造の接合は構造間に存在する相互作用などの相関を評価し、制御するための最も単純な素子となるため、複雑で集積されたナノ構造素子における物性機能の設計と創出において非常に重要となる。申請者は二つの半導体ナノ構造、特に1 次元電子系が並列に配置された素子において発現する物性に注目し、それらを設計、制御し精密に計測することで対象となるナノ構造の有する物理の解明に挑んできた。これまでに、量子ホール状態にあるグラフェンのpn 接合でおきる電子分配の微視的機構の解明を、精密ショット雑音測定を用いて行っている。これにより、pn 接合が光のビームスプリッタと同じ働きをすることが分かった。また、近年は二重ナノ細線の超伝導接合に注目し、二つの細線間にクーパー対分離が高効率かつ弾道的に起きることを実証した。これにより、二つのナノ細線間に量子もつれ相関を持たせる技術が確立された。現在は本技術を用いて実現した細線間の相関を基にして、マヨラナ粒子の実証とその制御を目指した研究を展開している。

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光ファイバ中のブリルアン散乱を用いた高速分布計測技術の開発

李 ひよん(芝浦工業大学)

先端計測

社会インフラの地震による損傷や経年务化を診断する手法として、光ファイバに沿った任意の位置で歪や温度を測定できる「分布型光ファイバセンサ」が精力的に研究されている。これまでに数多くの手法が提案されてきたが、光ファイバ中のブリルアン散乱の周波数シフトが歪や温度に依存する性質を用いた、「ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)」は周波数変調を施した連続光を光ファイバの片端から入射することで動作し、高空間分解能、ランダムアクセス性などの長所を有することが知られている。しかし、本システムは、ブリルアン利得スペクトル(BGS)全体を観測した後にピークを与える周波数を計算しており、測定に比較的長時間が必要であった。そこで、申請者は、BGS の傾斜を用いるという独創的な手法によって、BOCDR の長所とリアルタイム動作を両立できる「傾斜利用BOCDR」を提案し、その性能向上に取り組んでいる。この技術は、歪や温度に加えて測定ファイバ中に生じた損失を検出することも可能なため、光ファイバの破断点検出にも有用である。これまでに申請者は、本提案システムの特徴的な動作の調査、空間分解能の上限の解明、測定安定性の向上、長距離での動作の実証など、多くの研究を推進してきた。また、システムの実用化を視野に入れ、測定ファイバを複合材料に埋め込んで変形を加えたときの歪分布のリアルタイム測定も行っている。これらの成果は、種々の構造物に関わる防災・危機管理技術としての応用範囲を広げ、生活の安全性向上に寄与できると期待される。

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フェムト秒パルスレーザーpump-probe法による下部マントル鉱物の高圧下弾性波速度測定

若松 達也(東京工業大学)

先端計測

【着眼点】
地球体積の半分以上を占める下部マントル(深さ660-2900 km, 圧力25-135 GPa)の化学組成の解明は、地球の起源やダイナミクス、形成過程の理解を飛躍的に高める。しかしながら、半径6400 km に対して人類の最高到達深度は地下12 km にすぎず、地球深部の物質を採取することができていないため、化学組成は未解明のままである。地球深部で最も精密に決まっている観測データとして地震波の速さ(弾性波速度)が知られている(例えば、 Dziewonski and Anderson[1981, PEPI])。したがって、地球深部の物質が直接手に入らなくても、実験室において地球深部に相当する温度圧力条件で鉱物の弾性波(縦波、横波)速度を測定し、地震波観測データと比較することで化学組成を推定できる。ゆえに、下部マントルの化学組成を厳密に調べるには、主要構成鉱物の弾性波速度の温度・圧力・組成依存性を測定することが求められる。
【概要】
従来の高圧下弾性波速度測定手法では、1)試料の化学組成に制約があること、2)縦波速度(VP)の測定が難しいこと、が問題であった。そのため、主要構成鉱物とされるブリッジマナイト(bdg)とフェロペリクレース(fp)のVP のFe やAl 含有量依存性を下部マントル圧力条件下で調べることは難しい。そこで本研究では、フェムト秒(10-15 秒)パルスレーザーを用いた新しい測定手法を開発し、これまで測定が困難であった化学組成絵をもつbdg とfp の縦波速度測定を行った。得られたVPと観測されている地震波速度データの比較から、深さ660-1600 km までの下部マントル浅部の化学組成は、上部マントルと同じであることがわかった。

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