研究開発奨励賞について
NF Foundation R&D Encouragement Award

第9回(2020年度) 研究開発奨励賞

11月27日(金)に10名の受賞者10名による研究発表会が開催され、研究開発奨励賞優秀賞 2名、
選考委員会特別賞 1名、エヌエフホールディングス特別賞 1名が選出されました。(12月2日 発表)

研究開発奨励賞 優秀賞(五十音順・敬称略)

氏名 所属 分野 テーマ名  
佐藤 優樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 先端計測 放射性物質を3次元的に可視化する統合型放射線イメージングシステムの開発と実証 概要
松本 道生 物質材料研究機構 環境・エネルギー 多次元結晶性多孔質ポリマーの薄膜化とその水浄化膜への応用 概要

選考委員会特別賞(敬称略)

氏名 所属 分野 テーマ名
多々良 涼一 東京理科大学 環境・エネルギー リチウムイオン電池用多孔質複合電極の電気化学インピーダンス解析 概要

エヌエフホールディングス特別賞(敬称略)

氏名 所属 分野 テーマ名
平松 光太郎 東京大学 先端計測 振動分光計測に基づく無標識・大規模一細胞解析法の開発 概要

研究開発奨励賞(五十音順・敬称略)

氏名 所属 分野 テーマ名  
上道 茜 早稲田大学 環境・エネルギー 緊急時の自立エネルギー供給を可能にするシステム実用設計法 概要
翁 銭春 理化学研究所 先端計測 ナノデバイスの電子温度分布を可視化する走査雑音顕微鏡の開発 概要
金 相侖 東北大学 環境・エネルギー 高エネルギー密度蓄電池の創出に向けた水素化物系超イオン導電体の開発 概要
長谷川 浩司 工学院大学 先端計測 音響場による非接触流体制御の実現に向けた流動場と濃度場の高時空間分解能イメージング 概要
茂藤 健太 九州大学 環境・エネルギー 高移動度半導体薄膜の低温プロセス開発とフレキシブルデバイス応用 概要
山田 駿介 東北大学 環境・エネルギー 環境調和型ゲル電解質を用いた使い捨て可能な電源の研究開発 概要

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研究のねらいと概要

放射性物質を3次元的に可視化する統合型放射線イメージングシステムの開発と実証

佐藤 優樹(日本原子力研究開発機構)

先端計測

福島第一原子力発電所(1F)の高線量率環境や福島県帰還困難区域の屋外環境において、作業者の被ばく線量やケガのリスクを低減するために、これらの環境に3次元的に沈着した放射性物質を遠隔にて測定する技術が求められている。申請者は、放射性物質の2次元分布を測定する装置であるコンプトンカメラに、レーザ測域センサや写真立体復元による3次元環境モデリング技術を統合することで、放射性物質の分布を3次元的に可視化できるとの着想に基づき、さらにこれらをロボットと組み合わせることによって統合型放射線イメージングシステムiRIS(アイリス:integrated Radiation Imaging System)を開発した。実証試験では、レーザ測域センサ及び写真立体復元による取得データを用いてコンピュータ上に1F建屋内現場を再現し、周囲に比べて線量率の高いホットスポットの存在箇所を3次元的に可視化することに成功した。加えて、ドローンにコンプトンカメラ及びレーザ測域センサを搭載したシステムを開発し、福島県帰還困難区域において、従来の測定では半日以上かかるホットスポット探索について、わずか30分未満の測定で完了できることを実証した。このような技術は、作業者の被ばく線量管理を含む廃炉や除染作業の工程管理に直接貢献するものである。また、技術的貢献だけでなく、放射性物質を可視化することによって作業者の皆様に安心を提供することを目指している。

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多次元結晶性多孔質ポリマーの薄膜化とその水浄化膜への応用

松本 道生(物質材料研究機構)

環境・エネルギー

膜濾過分離技術を用いた精製法の発展は人類の全エネルギー利用のうちの10%を削減できる可能性を秘めている。特に、膜濾過技術による水浄化は技術資源が乏しい地域でも簡易に導入できるため注目を集めている。一方、最先端で開発の進む多孔性膜は非晶性ポリマーが利用されるため、孔の構造が定まらない。このため内部に含まれる孔の大きさ、化学的性質等を直接的に制御できず、多様な最適化が必要とされる技術ニーズに体系的に発展させることが著しく難しいという問題点を抱えている。申請者は近年、新たに研究の進む多孔質な結晶性多次元高分子、共有結合性有機構造体(COF)に注目し、COFの室温膜合成法を初めて確立した。本手法で得られる多孔性膜は孔の形状、化学構造を精緻に設計合成することができる。本手法で得られる多孔性膜は、早速、水浄化膜として検証され、有機水汚染物質を高い排除率で濾別し、飲用水へと転換することができることが示された。このCOFによる多孔性膜は、これまで試行錯誤により進展してきた膜合成技術を一新し、環境・エネルギーの分野で革新を起こすことが大いに期待されている。

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リチウムイオン電池用多孔質複合電極の電気化学インピーダンス解析

多々良 涼一(東京理科大学)

環境・エネルギー

電気化学(交流)インピーダンス法は電池セル内の抵抗成分を分離評価し、新規電極材料の電極反応速度を議論するにあたって強力かつ簡便なツールとして広く利用されている。しかしながら実電池で使用される複合電極(活物質粉末・導電助剤炭素・高分子結着剤の混合物)の交流インピーダンススペクトルは多種の抵抗成分が複雑に重なり合うため、厳密な帰属は困難を極め、現在においても異なる帰属を元に議論を進める論文が多数出版される状況にある。そこで本研究では複合電極中における交流インピーダンススペクトルの正確な帰属を提案することを第一の目的とした。電池研究に広く利用される交流インピーダンス法において一般性の高い帰属を提案することは極めて有用かつ学界への貢献度が高いと考える。また本手法を用いて電極反応速度を定量評価し、リチウムイオン電池用新規電極・電解液材料の設計指針へフィードバックすることを目指して更なる研究を遂行中であり、正負極への解析適用例を報告し始めているところである。

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振動分光計測に基づく無標識・大規模一細胞解析法の開発

平松 光太郎(東京大学)

先端計測

生体機能の統一的な理解のためには,多数細胞の測定にもとづく統計的アプローチが不可欠である.フローサイトメトリーはマイクロ流路中を流れる多数の細胞を1細胞ごとに測定する手法であり,大規模1細胞解析を効率的に行うことのできる分析法である.細胞の抗体染色と蛍光検出によって様々な細胞形質を計測することが可能である一方,蛍光色素による細胞毒性や非特異的染色などといった蛍光色素を導入することに由来する問題も存在する.そのような問題を解決するために,本研究では分子振動に基づき分子を無標識に測定できるラマン分光法に着目し,高スループット振動分光フローサイトメーターの開発を行った.先端レーザー技術を駆使した高速ラマン分光装置とマイクロ流体デバイスを融合することにより,1秒間に1000細胞以上の無標識解析が実現した.再生医療応用にむけた細胞スクリーニングなどといった蛍光染色の利用が適さない応用や,蛍光染色で検出が難しい生体小分子の検出など,1細胞解析の応用範囲を大幅に拡張する技術であると期待される.

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緊急時の自立エネルギー供給を可能にするシステム実用設計法

上道 茜(早稲田大学)

環境・エネルギー

2011年3.11以降、レジリエンス強化の一環として、事業継続性強化は喫緊な課題である。なかでも、エネルギーの確保は最重要課題であり、2017年3月に厚生労働省より交付された災害拠点病院のガイドラインでは,通常時の60%の発電容量を有する自家発電設備の保有が要件とされた。しかしながら、このような基準では経済性や環境性の観点と停電時のレジリエンス性が両立しているかどうかは明確ではない。また、平常時における分散型電源の経済性に関する研究は多く行われている一方、エネルギーレジリエンス性を考慮した客観的な指針が示されていなかった。
本研究テーマでは、緊急時の自立エネルギー供給を可能にする分散型電源を中心としたシステムの実用設計を目指した研究を実施している。現在は、公共性の高い災害拠点病院を対象として、災害時の事業継続性の観点から分散型電源の最適導入量を数理モデルに基づいて提案する支援ツールを構築しており、この成果を政策提言としてまとめあげることを目標に推進している。

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ナノデバイスの電子温度分布を可視化する走査雑音顕微鏡の開発

翁 銭春(理化学研究所)

先端計測

多くの物性現象と電子素子の機能は、非平衡電子系のナノスケールでの動力学によって決まる。従来それを直接知る手法が無く、物性現象探求と素子開発に技術的限界を与えていた。最近、申請者らは “走査雑音顕微鏡(SNoiM)”と呼ばれる新しい走査型プローブ顕微鏡を開発し、ナノデバイスの電子温度の計測・マッピングに初めて成功した。この手法は、電子系がその揺らぎによって試料表面に生成するテラヘルツ(THz)領域の近接場(エバネッセント電磁場)を探針プローブで散乱し、生じた散乱波を超高感度テラヘルツ検出器で捉えるという、全く新しい原理に基づく超高感度の近接場顕微鏡である。
この顕微鏡を用いて、従来明らかにできなかったナノスケール領域での電子間相互作用・電子-フォノン相互作用・格子間相互作用によるエネルギー流を伴う非平衡現象のダイナミクスを明らかにする。今まで存在しなかった基礎物性解明のための先端計測手段を提供し、新規物質系・素子系における非平衡現象の微視的理解を格段に進展させる。

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高エネルギー密度蓄電池の創出に向けた水素化物系超イオン導電体の開発

金 相侖(東北大学)

環境・エネルギー

申請者は、新規蓄電デバイスの創出を目指した全固体電池の材料研究に取り組んでいる。全固体電池の基盤材料となる固体電解質への応用に向けたリチウムイオン導電材料に関する研究を進める中で、独自材料設計指針『錯イオンの分子レベルの共存化による構造無秩序化』を確立し、錯体水素化物材料の室温超リチウムイオン導電率の実現に初めて成功した。この新規材料特性は、原子置換や原子欠損などの従来の構造制御法から脱して、錯イオンを一つのイオンと見なし、錯イオンを分子レベルで共存化するという着想により可能となったものである。また、開発した超イオン導電材料を全固体電池の固体電解質に実装することにより、世界最高のエネルギー密度を達成した。本研究の成果は、イオン導電材料と蓄電デバイスの新たな研究領域として国内外の研究界から大きく注目されている。今後、錯体水素化物の社会的価値が格段に高まるとともに、イオン導電体に関わる学理探求と次世代蓄電デバイスの創成に向けた新たな潮流が生まれることが予想される。特に、電気自動車電池システムへの応用が現実的になることで、電気自動車の普及とそれによるCO2排出量の削減に膨大な波及効果が期待できる。

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音響場による非接触流体制御の実現に向けた
流動場と濃度場の高時空間分解能イメージング

長谷川 浩司(工学院大学)

先端計測

本研究では、音響場を活用して浮遊させた流体の輸送、合体、混合・撹拌、蒸発・乾燥プロセスを空中で非接触かつ高精度に実現するために必要な物理量の直接計測技術の開発を行っている。例えば、分析化学の分野では、分析時間や費用削減の観点から分析手順の効率化が求められている。容器を用いる従来法では容器壁面からのコンタミネーション(検体汚染)、壁面への吸収・吸着といった問題を回避するために数百ml以上の大容量処理や特殊な容器を用いてきたものの、処理時間の増加、高環境負荷な廃液発生、さらにはコストの増加の観点から問題視されてきた。
そのため申請者は、音場浮遊法による非接触流体制御技術を活用した問題解決を提案している。本手法は、音響場を活用し、物性に依らずにµl~nl程度の極微量流体を空中に非接触保持可能とする一方、浮遊液滴の内外部に発生する流動場と連成して液滴の蒸発(熱物質輸送)に影響を与える。そこで浮遊液滴の流動場と同時に光干渉計を用いて濃度分布を計測することで、連成する物理現象の定量化およびモデル化に必要な物理量の高時空間イメージング技術を開発している。
以上の開発した技術によって、極微量試料に対する分析作業を可能とするLab-in-a-drop(液滴内で混合や反応などの全操作を完結する)の概念実証を世界に先駆けて取り組んできた。

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高移動度半導体薄膜の低温プロセス開発とフレキシブルデバイス応用

茂藤 健太(九州大学)

環境・エネルギー

ガラスやプラスチック等の安価な絶縁基板上の半導体薄膜は、従来デバイス(集積回路、太陽電池等)の高性能化に加え、バルクでは成し得なかった全く新しいデバイス(フレキシブル情報端末等)の可能性を開拓する。これらの実現には、半導体薄膜の低温合成技術の革新が必要である。本研究では、Ge薄膜の「固相成長の高度化」と「Ge中へのSn添加」により、ガラスおよびプラスチック上において、従来最高品質(正孔移動度 > 400 cm2/Vs)となる多結晶GeSn薄膜の低温合成(≤ 500 °C)に成功した。この膜を用いてトランジスタを作製し、電界効果移動度(170 cm2/Vs)とオン/オフ電流比(103)を従来最高レベルで両立した。今後、プラスチック上pチャネル/nチャネルトランジスタとそれらをベースとしたフレキシブルCMOS回路の構築に向けて、研究を推進する。低消費電力と高性能をあわせ持つフレキシブルデバイスを創出し、持続可能な社会への貢献を目指す。

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環境調和型ゲル電解質を用いた使い捨て可能な電源の研究開発

山田 駿介(東北大学)

環境・エネルギー

本研究の目的は、使用後に分解することで環境への負荷を低減したゲル電解質により、無線センサ端末のための環境調和型高性能フレキシブル電源を実現することである。これにより、無線センサ端末に搭載する、使い捨て可能な電源を実現することができる。本研究では、環境調和型ゲル電解質によるディスポーザブル蓄電素子を作製・評価を行った。
本研究内容は、環境調和性をもつスーパーキャパシタという実用的な意義を持つだけではなく、イオンをセンシング原理としたイオニクスや、電子とそのハイブリッドによるイオントロニクスに基づく新規のフレキシブルデバイス実現の観点から独創的であり、学術的に意義深い。さらに、イオンを使用したデバイスは、発電素子から、クロミック素子まで応用展開は幅広い。このため、本研究により、イオントロニクスに立脚したデバイスの新たな展開が実現できる。

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